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<忍たま・六年後の乱太郎+α、六年後の〇〇さん>


『人を殺す奴は、自分がいつ誰に殺されてもいいと、そう思えるくらいの覚悟が必要だ』

 昔、誰かが口にした。
 それが誰だったのかまるで思い出せはしないけれど、そう口にした誰かは、とても穏やかな表情をしていた様な気がする。
 六年前の、自分たちがまだ一年生だった時。
 当時の六年生の誰かが、そう口にしていた。
 それは多分、間違いない。

「乱太郎? おーい」

 目の前でぶんぶんと手が振られる。
 それと同時にかけられた声で、乱太郎ははっとした。
 すぐに顔をあげて、声と手の持ち主を確認する。

「きり丸。何、どうしたの?」
「どうしたの、って……。先生が呼んでたんだけど、まぁそれはともかく、ぼーっとしてどうした?」

 きり丸が不思議そうにする。
 呆れているようでもあった。

「いや、ちょっと考え事をね。先生、どこにいる?」

 乱太郎の質問に、きり丸は指をさして答えた。
 それにお礼を言い、乱太郎は歩き出す。

 保健室ということは、新野先生だろう。
 六年連続で保健委員になった乱太郎は、当然のように委員長も務めていた。
 そう言えば、六年前の先輩も同じだったな、と思い出す。
 年を重ねていくごとに授業が厳しくなっていき、昔を思い出す余裕はあまりなかった。
 どんなにお世話になった先輩でも、六年も経つとはっきりと顔を思い出すのも難しい。
 それでも、見れば思い出せるのだろう。
 きっと、完全な消去などできない。仮に、したくても。

 卒業してからの彼らが、今どこで何をしているのか。
 気にならないわけではない。
 ただ、聞いていいことなのか分からない。
 忍者は秘密主義なのだから、きっと聞いても、教えてはもらえないだろう。
 そんな気がする。

「新野先生、何か御用ですか?」

 そう声をかけながら保健室に入り、思わず立ちつくした。
 表情も、きっと間抜けだったに違いない。
 先生は苦笑した。
 もう一人も、苦笑していた。

「伊作、先輩……?」

 確認するような、でも絶大な確信を持って、その言葉は呟かれた。
 乱太郎は困惑しつつも、表情が緩んでいく自分を感じた。
 懐かしさに、喜びを感じたし、そして何より。

「乱太郎、元気だった?」

 生きていてくれた。
 命の危険と隣り合わせの仕事で、生き延びていた。
 その喜びが、溢れ出したようだった。
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<忍たま・長次>


 朝、図書室の窓を開けて、長次は思った。
 気持ちのいい朝だな、と。


 無口で仏頂面な六年生、それが己に対する周りの評価だと、長次は理解している。
 別に文句もないし、事実その通りだと思う。
 だが、別に何も感じないわけではない。

 当たり前であるが。

 だから、たまには感傷的になることだってあるのだ。
 人並み、には。


 授業を終え、放課後。
 図書委員の仕事があったので、長次は図書室に足を運んだ。
 図書室内には勉強熱心な生徒が数人いたのみで、ガラガラと言えるほどに少なかった。
 これはまぁ、いつものことなので気にしない。

 長次はまず、返却された本の整理を始めた。
 たいして量もないのですぐに終わる。
 実際、五分とかからなかった。
 あとは貸し出しスペースで適当に座ってればいいのだが、どうにもそれでは暇なので、今度は棚の本の整理を始めた。

 よく本が持ち出される棚は順番がぐちゃぐちゃになりがちである。
 仕方のないこととは言え、もう少し気にかけてもらいたいものだ。
 長次は小さくため息をこぼし、丁寧に直し始めた。

 気がついて時計を見ると、十分が経過していた。
 そろそろ誰かが借りるか、返しに来るころだろうかと貸し出しスペースの方に行くと、見慣れない一年生が困ったように立っていた。
 何分くらい待っていたのだろうか。
 長次が顔を出すと一瞬びくっとして、落ち着きをなくした。
 毎回同じような反応をされれば慣れる。
 長次は何も考えないようにして、貸し出しの手続きを済ませた。
 本を受け取った一年生は足早に図書室を出ていく。
 それをぼーっと見送った。

 別に、何も感じないわけじゃない。
 慣れたって、嬉しいわけじゃない。

 多分、あの一年生は、声をかけられなかったのだろう。
 長次が怖かったか、あるいは六年生が怖かったか。
 どちらにしろ、恐れられている。
 その事実は変わらない。

 悲しいとは、思わないけども。
 辛いとも、思わないけども。
 ただ空しいな、と。
 感傷的にはなったりする。

 それから夕方まで、何とはなしに過ごした。
 仕事のない間は本を読み、仕事が必要になったら流れ作業で済ます。
 意識しなくても手順通りに体は動く。

 ずっと、やってるんだな。
 そんな風に改めて思った。

 そろそろ、今日の仕事は終わりの時間だ。
 開いていた本を閉じて棚にしまう。
 窓を閉めて、中に誰も残っていないか確認。
 そして図書室を出た。

「あ、やっと終わったな!」

 鍵を閉めていると、明るい声が背後から聞こえた。
 聞きなれた声。
 長次は無言で振り向く。

「お疲れ~。って、あれ、なんか、元気ない?」

 小平太が不思議そうに言った。
 長次の表情は平生と変りない。
 少なくとも変えてるつもりはない。

 でも。

 少し、ほんの少しだけ、嬉しくなった。

「みんな食堂で待ってんだ。早く行こーよ」


 無口で仏頂面な六年生、それが己に対する周りの評価だと、長次は理解している。
 別に文句もないし、事実その通りだと思う。
 だが、別に何も感じないわけではない。

 だから、たまには感傷的になることだってあるのだ。
 嬉しくなって、ちょっとだけ、泣きそうになることだってあるのだ。
 人並み、には。
<忍たま・六年(伊作)>


 いつだったか、約束した覚えがある。
 この箱を開けるのは、自分たちが卒業できたらだ、と。
 いつもの六人で集まって、それぞれが持ってきたものを箱の中に入れた。
 その箱は、裏山の木の下に埋めてある。
 お互いに何を入れたかは秘密で。それは開けた時のお楽しみでもあった。
 今思えば、その箱は、全員が一緒に卒業する。そういう想いも込められていたのかもしれない。
 埋めてからの数日は皆しきりに気にしていた。
 でも時間が経つにつれ、学年が上がるにつれ、僕らは箱の存在を忘れた。
 忙しくて、気にする暇もなかったのだ。
 そうして僕らは、六年になった。
 変わらない関係で。でも、中身は大きく。
 喧嘩がなかったとは言わない。
 一言も口を利かなくなるような時期だってあった。
 でも僕らは、結局は一緒にいる。
 そしてもうすぐ、箱を開ける時期がやってくるのだ。

 思い出したのは、一年生を見た時だった。
 見慣れない一年生何人かで集まって、楽しそうに話していた。
 中央には箱があって、そこに各々思い思いの物を入れていた。
 そう言えば。
 僕らも同じようなことをしたな。
 そんな感じで、ふと思い出したのだ。

 何気なくその話を皆にしてみれば。
 僕らが埋めた箱のことが自然と話題に上った。
 皆も何だかんだで覚えてはいたらしい。
 だが皆、何を埋めたのかあやふやだった。
 僕もまるで思い出せない。
 そうなってくると気になってしょうがなくなるものだ。

 約束よりも早く掘りだそうなどとは思わないが、頻繁に箱のことを考えるようになった。
 保健委員だった僕は、それに関係するものを埋めたような気もする。
 不運委員と言われてはいたが、結構好きだったのだ。

「ねぇ、留三郎。何埋めたか覚えてる?」

 授業の合間に聞いてみたが、留三郎は首をひねった。
 特に考えることもなく、首を振ったようだった。

「全然。何に関係してるものとか、そう言うのも分かんないな」

 そう答えた留三郎は、たいして気にしてはいないようだった。
 どうせ開けるのだから。
 そんな風に思っているのだろう。

 他の皆に聞いても、たいして答えは変わらなかった。
 い組二人は。

「もうすぐ開けるわけだし、たいして気にならねぇな」
「覚えてはいないが、さして興味もない」

 どうでもいい、そんな感じだった。
 思い出にこだわるタイプではないのだろう。

 は組二人は。

「んー、何だったかなぁ。長次は?」
「……(首を振る)」
「えー、ダメじゃん」
「……」

 話題はすぐにそれた。
 気にはしているようだが、僕ほどじゃない。

 ところで、僕が何でそんなに気にしているのか、と言えば。
 おぼろげではあるけれど、何か結構恥ずかしいものを入れた気がするのだ。
 気だけだけど。
 皆に見られる前に、確認したいという思いが強かったりする。
 あの時に、僕は何を想っていただろうか。
 もう、先に開けてしまおうかな。

 そう思ったとき。
 箱を埋めていた一年生たちが集団で通りかかった。
 楽しそうに騒いで、明るく笑っている。
 一年生たちは、希望に満ち溢れていた。

 やめた――。

 やっぱり、皆と一緒に開けよう。
 たとえ恥ずかしくても。
 それは皆との思い出の一つだから。
<忍たま・布団の住人>


 布団にもぐっていると、ふいに寒気がした。
 もぐっているつもりだったが、どうやら違ったらしい。
 片足だけが半分以上布団から飛び出していた。
 冷気はそこから侵入したようだ。
 飛び出した足を再び布団の中に引き戻し、今度こそ完全に布団の中へともぐった。

 今は何時だろうか。
 首を巡らせて隣にあるはずの布団を見ると、誰もいない。
 布団すら敷かれていない。
 自分の足元の方に目線を送れば、そこには綺麗に畳まれた布団があった。
 同室の住人は朝が早い。
 時間の目安にするにはあまりにも頼りないが、何もないよりはましだ。
 同室の奴は最低起床時間よりも三時間は早く起きる。
 ちなみに、最低起床時間とは、少なくともその時間には起きないと授業に間に合わなくなる時間だ。

 それはさておき。

 そうなると、最高で三時間、私には寝る時間が残されている。
 だが布団が畳まれている様子から想像するに、丸々三時間とは考えられない。
 起きてすぐに畳むわけでもないから、三十分は減るだろう。
 残り二時間半。

 布団から少し離れた場所に机がある。
 昨日の夜、寝る前はなかった筆が机の上に置かれていた。
 布団があっては机が使いにくいので、机が使われたのは布団を畳んだあと。
 宿題に関しては夜に終わらせていたのでたいして使ってはいないだろう。
 それは墨汁の減りぐあいからも納得できる。
 すると準備も入れて十分ほどか。
 残り二時間二十分。

 同室の奴は鍛錬のために朝は部屋の周りを走っている。
 長屋の周りを十周はしているだろうか。
 一周には五分ほどかけている。
 私が起きてから五分は経っているが物音も声もしていないので、走り終えているのだろう。
 走る前の体操時間を考えると一時間ぐらいは余裕で減る。
 なんだかんだで走る周を増やしただろうから。
 一時間二十分を減らすか。
 残り一時間。

 走り終えたあとはいつも髪を濡らした状態で戻ってくる。
 どうやら汗を流すために水を浴びているようだった。
 戻ってきたあとはタオルと重いそろ盤を持って再び外へ出ていく。
 使用時間は三十分だろうか。
 今、タオルもそろ盤も部屋に見当たらないのでその行動も終えているようだ。
 残り三十分。

 三十分前ともなると、さすがに他の部屋の生徒も行動を開始する。
 準備をしていたり、人がいたりすると自然と騒がしくなるものだが。
 そうした気配もなければ物音もない。
 と、すると。
 二十五分は経過してるだろう。

 つまり、残り五分。
 残り五分ということは、そろそろ来るだろう。

「おい、いい加減起きろ」

 ビンゴ。
 ちょうど五分前だ。

「お前、いつも少なくとも十五分前には目は覚めてんだから素直に起きろよ」
「別に私は布団から出たくないだけだ」
「起きたばかりだと頭が働かないだけだろうが」

 呆れたように同室の奴は顔を顰めた。
 私はその反応を無視し、のんびりと布団から出る。
 そしてのんびりと、支度を始めた。

 別に、朝に弱いわけじゃない。
 ただ布団が好きなだけだ。
 いや、そうじゃない。
 ただ布団から出る前に頭を使いたいだけだ。
 そう、そういうこと、だ。

「おい仙蔵! 支度しながらねんじゃねぇ!」

 遠くの方で、文次郎の声がした、気がした。


「いや、気のせいじゃねぇから」
<忍たま・伊作と乱太郎>


 日差しが強かった。
 じりじりと肌を焼く感覚は、まさしく夏のものだ。
 暑いのは嫌いだし、歓迎する気もなかったけれど。
 でも、なぜだか、平和だなぁって思ったりする。

平和な一日。

 伊作は保健室でのんびりお茶を啜りながら、一息ついていた。
 新野先生は急用とかで、数分前にあわただしく出て行った。
 なるべく早く戻ると言われたので留守番代りに待っているのである。

 外は昼休みらしい適度な騒々しさがあった。
 たまに保健室の前を通る生徒は、決して怪我などではなく、楽しそうに笑いながら過ぎ去るばかりである。

 平和だなぁ。

 争いや喧嘩はあまり好きではない。
 怪我されるのはとにかく一番困る。

 だから、平和なのは安心する。

 いつもは退屈でしょうがなかったりもするのだが、今日はのんびりしたい気分だった。
 暑くはあるが、苦しいほどではない。
 むしろポカポカ陽気というか、過ごしやすい気候だ。
 だんだんと眠くなってくる。
 伊作はそれでも、何とか欠伸をかみ殺していた。
 せめて、新野先生が戻ってくるまでは起きていようと思ったのだ。

「あの、伊作先輩?」

 必死に眠気に耐えていると、後ろから小さく呼ぶ声が聞こえた。
 振り向いて確認する。
 それは、乱太郎だった。

「ん、どうしたの? 乱太郎」

 向き直って問いかける。
 乱太郎は室内を見回すように顔を動かし、

「あの、新野先生は?」

 尋ねた。
 伊作は首を振る。

「今はちょっといないね。数分で戻るとは言ってたけど…」
「そうですか…」
「どうかしたの? 怪我?」
「あ、はい。しんべヱが、思いっきり転んじゃいまして」

 苦笑した乱太郎は「お薬、貰えますか?」そう言った。
 伊作は簡単な症状を聞いて的確に薬を取り出す。
 量はある程度抑えておいた。

「はい、これ」
「ありがとうございます。先輩は、留守番ですか?」
「うん、まぁそんなとこだよ。今日はあまり、仕事はないけどね」
「その方がいいですよ、みんな元気だってことですし」
「それはそうだね」

 伊作と乱太郎は小さく笑い合った。
 そのまま少しだけ話し、慌てたように乱太郎は帰って行った。
 軽傷とはいえ、怪我をしているしんべヱのことをすっかり忘れていたのだ。
 伊作は苦笑して見送り、ぽつりとつぶやいた。

「平和だなぁ」
主に小話集。 オリジナルも版権もまちまち。
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